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第1回 JIS Z 8210 案内用図記号の成り立ち

図記号と規格

第1回
JIS Z 8210 案内用図記号の成り立ち

1. はじめに

 図記号は一般的には「ピクトグラム」または「絵文字」と呼ばれ、一見してその意味が分かるため、難しい文字や専門的な用語を知らない人々や言葉が違う国の人々にも同じように容易に理解でき、また高齢者や障害者配慮の観点からも世界共通のユニバーサルデザインの一環として役立つ、と言われている。JISでは、「言語によらず情報を伝達するために用いるある固有の意味を持った視覚的に知覚される図形」と定義されている。現在のJISは、大きく「案内用図記号」「安全用図記号」「機器・装置用図記号」「製図用図記号」「各種用途別図記号」に大別されるが、今回のコラムでは、そのうちの案内用図記号について述べる。

 現在、日本の案内用図記号の標準化を支えるものとして、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団(以降、エコモ財団)の標準案内用図記号と、JISとして制定された次の図記号規格がある。
・JIS S 0101 消費者用警告図記号 2000年発行
・JIS S 0103 消費者用図記号 2002年発行
・JIS Z 8210 案内用図記号 2002年発行

 また、図記号ではないが、言葉によるコミュニケーションが困難な人びとのために次の規格も発行されている。
JIS T 0103 コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則 2005年発行

2. 案内用図記号標準化の歴史

 日本では、1964 年に開催された東京オリンピックで案内や誘導、競技種目表示に図記号が採用され、その結果、日本の図記号は一躍世界から注目されることになった。
 ISOでは、1970年に図記号分野の統一のためにTC145図記号専門委員会が発足し、1980年にISO 7001公共案内用図記号初版を発行した。日本は同1980年5月にTC145国内対策委員会を発足し、8月にはJIS図記号通則JIS原案作成委員会及びJIS公共案内用図記号原案作成委員会を開催した。その後、日本は毎年ISO国際会議に出席し、1986年には、当時、ISOで検討されていた加盟国共通の図記号認知テストに参加するなど、情報交換と図記号標準化に貢献していた。
 一方、国内では主に 1974年にUSDOT(米国運輸省)がAIGA(米国グラフィックアーツ協会)に委託して作成したSymbol Signsをもとにした図記号が空港、鉄道その他あらゆる企業や組織によって使用されていたが、ISO7001の初版はわずか13項目の図記号のみであったため、国内で使用されることはなかった。

 ところで、ISO7001は第2版がようやく1990年に発行されたが、それでも57項目があるにすぎず、対応JISもないことから、利用者にとってわかりにくいものとなっていた。そこで 2002年の日韓共催のサッカー・ワールドカップ開催を契機に、エコモ財団で統一基準を作り、JIS化とともにISOに対しても提案、調整を通じて国際標準化に寄与してゆくことにした。初年度の1999年は国内外の動向の把握、候補図記号の選定を行い、翌2000年に標準化原形の策定、理解度、視認性試験を行ったうえで、最終的に2001年3月に125 項目の図記号を「標準案内用図記号」として選定した。そして、それを基に2001 年よりJIS案内用図記号原案作成委員会を開催し、2002年3月20日、「JIS Z 8210 案内用図記号」が制定された。
 JIS Z 8210は、移動やショッピング、安全に対する図記号など我々の日常生活に関連の深い規格で2002年に発行され、追補6まで発行されたのち、2017年にISOとの整合及び2020東京オリンピック、パラリンピック開催を踏まえて全面改訂された。その後、2020年に追補3までが発行され、2022年には再び改訂版が発行される予定だ。当初は公共・一般施設、交通施設、商業施設、観光・文化・スポーツ施設、安全、禁止、注意、指示図記号の8分野で合計110項目で構成されたが、2017年の改修で災害種別一般、洪水・堤防案内の2分野が加わり、合計164項目まで成長した。
 以下、進捗を列記する。
JIS Z 8210 2002年発行
・2007 追補1 防災図記号の充実
・2009 追補2 津波関連図記号追加
・2010 追補3 社会的配慮による項目名称変更
(例:身障者用設備 → 障害のある人が使える設備)
・2014 追補4 優先設備図記号追加
・2015 追補5 ベビーカー対応図記号追加
・2016 追補6 災害種別一般図記号、災害種別注意図記号追加
・2017 ISO、JIS整合及び2020東京オリパラ対応に伴う追加を含む大改正
・2019 追補1 トイレ関連図記号追加
・2019R追補2 AED図記号追加
・2020 追補3 オリパラ対応図記号追加


図1:津波関連図記号の追加


図2:優先設備図記号の追加


図3:災害種別一般図記号、災害種別注意図記号の追加

【執筆者】
児山啓一(こやまけいいち)
1950年岡山県生まれ、千葉大学工学部工業意匠学科卒。株式会社 アイ・デザイン代表取締役。
主に空港や鉄道の公共サインを専門とするデザイン事務所を主宰する。
  ・JIS案内用図記号のデザイン原則及び試験方法JIS委員会委員、同分科会主査
  ・ISO/TC 145/SC 1 案内用図記号 国内委員会委員
  ・2021年8月に書籍『世界ピクト図鑑』(ビー・エヌ・エヌ)を出版

図記号関連規格・書籍
JIS Z 8210:2017
案内用図記号
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 1:2019
案内用図記号(追補1)
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 2:2019R
案内用図記号(追補2)
JIS Z 8210:2017/AMENDMENT 3:2020
案内用図記号(追補3)
JIS T 0103:2005
コミュニケーション支援用絵記号デザイン原則
JIS HB 60 図記号 2020
JIS Z 8210:2017 案内用図記号データを販売しております。詳細は こちら をご覧ください。 その他の図記号データを販売しております。詳細は こちら をご覧ください。